鎌倉市の(仮称)山崎・台峯緑地実施設計(案)が2014年7月に発表になりました。
同案に対し、当会では鎌倉市へ意見書を提出しました。


山崎台峯緑地実施設計(案)についての意見書


  理念なき「谷戸の池」大規模堤防工事

1)山崎台峯緑地の理念とはなにか?
その答えは2006年から2007年にかけて作成された基本構想、基本計画の中に明示されています。
「現存する自然環境を最大限保全し、基盤造成や水環境の整備にあたっては必要最小限の整備にとどめる」
実施設計にあたって、この理念はすべての基本になります。
所が実施設計案の中に記載されている「谷戸の池」の大規模堤防工事はこの基本理念に反する工事と言わざるをえません。

2) 実施設計案の大規模堤防工事概要
① 「谷戸の池」北側に現存する堤防は地震災害の際、左岸が崩壊する危険性があるので強固な堤防にする為工事は大規模になる。
② 堤防工事が大規模となる為、湿地帯に工事用仮設道路(幅員3m)を敷設し建設資材、重機械等の搬出入に使用する。
③ 工法については全断面で遮水する、均一型(均一な土を使用)とする。
その為に「谷戸の池」北側湿地帯の土を掘り起こし使用する。
④ ヘドロ処理については計画よりヘドロ量が多く、保管場所が狭いため、湿地帯に散布しながら湿地帯の表土と攪拌する。
 ① の大規模工事について
 実施設計素案では農業用貯水、防災調整地として3000トン以上のため池となる為技術基準に準拠したものでな くてはならないとされていました(基本設計では貯水量は1840㎥と記載)実施設計案では地震発生時に左岸が 崩壊するとあります。
 先ずは「工事ありき」の強い意向が見え隠れします。
 ② の仮設道路について
 3m幅員の仮設道路は工事終了後撤去すると記述されていますが湿原を縦断する仮設道路を敷設すれば、周辺の土 壌も含め、湿原全体に及ぼす影響は計り知れません。
 ③ ④工法とヘドロ処理
 「谷戸の池」北側の湿原から均一な土を採取しヘドロを採取跡地に散布する。
 実行されると湿原とそこに生息する生物、植物に壊滅的影響を及ぼします。

3) 小規模堤防工事の提案
堤防工事は必要最小限の工事にとどめるべきです。手作りの水門を作り水量の調節を行ってはいかがでしょう。
現存する堤防は50年前から崩壊の危険度が増してきているとは考えられません。
堤防の上部はアズマネ笹が覆い、根を四方にはびこらせています。
規制基準以内の改修工事にとどめることで法的規制を考慮することもないかもしれません。現存する堤防に沿って遮水シートを設置するだけでも安全性は飛躍的に増すでしょう。そしてしばらく経過観察した後、必要であれば対策を考えればよいのです。
●小規模堤防工事の最大のメリットは仮設道路を設ける必要がなくなることです。建設用資材、建設用重機の搬出入が不要となるからです。
●ヘドロの除去
 長年にわたって放置された「谷戸の池」はヘドロが堆積されています。
幸い「谷戸の池」東側に作業ヤード予定地の空き地があります。ヘドロの受け皿として利用してはいかがでしょう。浚渫量は限定されますが毎年保管できる範囲内で浚渫を繰り返すことでヘドロ運搬の仮設道路は不要となります。そしてしばらく経過観察です。
●堤防工事は本体工事だけで6000万円が予算化されています。
 小規模工事にすることで大幅なコスト削減になります。
●下流部の全面護岸工事は不要
 ヒューム管の下流部の散策路沿いを、湿地側も含め、石組で全面的に護岸する工事により、景観と生態系に大きな影響を与えてしまいます。工事用の重機を搬入するのではなく、散策路の安全性確保のみを考えた整備に留めるべきでしょう。現在の景観と生態系を改変することに対し、多くの市民が危惧している現状を深く受け止めてほしいと願います。

 必要最小限の堤防改築工事にとどめることにより、山崎台峯緑地の理念が生かされ50年後、100年後の次世代にこの理念は引き継がれることになります。
理念は長い時間軸で考えなければならず、短期間での利害得失にこだわるべきではないのです。
この提案は当基金の会員250名の総意であることをご理解ください。

                       2014年8月10日
                  鎌倉市山ノ内704番地9(和泉宅気付)
                 NPO法人北鎌倉の景観を後世に伝える基金
                    理事長  出口克浩